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東京地方裁判所 昭和53年(むイ)447号 決定 1978年5月17日

被告人 村山育子 外四名

主文

本件各忌避の申立をいずれも却下する。

理由

一  本件各忌避の申立の原因は、別紙被告人村山育子他四名名義の「小林充裁判官に対する忌避の申し立て」と題する書面記載のとおりである。

二  被告人桑原圭子、同磯部秀子、同小野博史の申立の適否について

前記申立書には、被告人村山育子、同臼井敏恵の各記名押印がなされているほか、同桑原圭子、同磯部秀子、同小野博史の氏名を記載したうえ、名下に各「代」と記載し、同所に被告人村山育子の名下に押捺されている「村山」の印影と同一と認められる印影がそれぞれ顕出されており、氏名欄の上部に「東京拘置所において、指印(「指印証明」の誤記と認める。)を請求したところ拒否されたので、代つて委任状を添付します」旨の添書がなされており、被告人桑原圭子、同磯部秀子、同小野博史から「村山育子を代理人と定め東京地方裁判所刑事第一五部部長小林充裁判官の忌避に関する一切の件を委任する」旨の各委任状が添付されている。なお、右各委任状には、被告人らの弁護人添田修子による指印証明が付されている。

そこで、右のような方式による被告人三名の本件申立の適否につき検討すると、刑事訴訟における訴訟行為については、法が明文を以て代理を認めている場合以外であつても、一身専属的でない手続形成行為については弁護士を代理人とする代理を認めても差支えないとする見解は存するけれども、忌避原因の有無、法第二二条但書の要件の存否等は各被告人ごとに事情を異にし得るうえ忌避申立に踏み切るか否かについてはとくに本人の決断に負うところが多い点に鑑み、忌避申立には一身専属的色彩が濃厚であるうえ、本件にあつてはすでに弁護士である弁護人が選任されているのにあえて私人である相被告人を代理人としようとするものであつて、前記見解に従うとしても代理が許される例外的場合には該当しないというほかないのみならず、前示のようないわゆる代印による方法は適法な代理人による訴訟行為の表示とも認めがたい。

以上いずれの点よりするも、被告人桑原圭子、同磯部秀子、同小野博史の本件申立は不適法という他なく、却下を免れない。

三  被告人村山育子、同臼井敏恵の申立の当否について

1、申立書一、二項記載の原因について

公訴提起後第一回公判期日までに保釈請求却下の決定をした裁判官が第一審の審理判決に関与したとしても、刑事訴訟法所定の除斥事由にあたらないのは勿論忌避の原因があるものとも認められないことについては、屡次の判例により既に確立されているところであつて(たとえば、最高裁判所昭和二五年四月一二日大法廷判決、集四巻四号五三五頁)、所論は理由がない。

2、同三項記載の原因について

東京地方裁判所刑事各部に対する裁判官の配置は同庁内部における事務分配の問題に過ぎず訴訟法上の裁判官の権限とは何ら関わりないのみならず、小林裁判官は前任者から適法に事件の引継ぎを受けて所論期日の打合せを行なつているのであるから同裁判官の措置に何らの違法はなく、いわんやこの点を捉えて同裁判官に忌避の原因があるものとすることはできない。所論は失当である。

3、同四項記載の原因について

所論は六年前の別事件における小林裁判官の訴訟指揮を論難するものであつて、それ自体本件における忌避原因となすを得ないのみならず、同裁判官が申立書記載のような言動をなしたことについて何らの証拠も認められない。

4、同五ないし七項記載の原因について

元来裁判官の忌避の制度は、当該事件の手続外の要因により、当該裁判官によつてはその事件について公平で客観性のある審判を期待することができない場合に認められるのであつて、その手続内における審理の方法、態度などはそれだけでは直ちに忌避の理由となし得ないものであり、これらに対しては上訴等の不服申立方法による救済にまつべきである(最高裁昭和四七年一一月一六日第二小法廷決定、集二六巻九号五一五頁、同昭和四八年一〇月八日第一小法廷決定、集二七巻九号一四一五頁等)。所論はいずれも小林裁判長の期日指定その他の訴訟指揮権、法廷警察権の行使について不服を唱えるに過ぎず、訴訟手続内における審理の方法、態度に対する不服を理由とするものであつて忌避申立の原因とすることは許されない。論旨はいずれも理由がない。

四  叙上の次第であるから本件各忌避の申立はいずれもこれを却下すべく、刑事訴訟法第二三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 半谷恭一 松澤智 井上弘)

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